抗老化物質sesamin(C20H18O6)は脳内のグリア細胞に作用して、転写因子Nrf2を活性化し、抗酸化・解毒遺伝子群の転写を誘導することを明らかにしました。(バイオメディカルセンター)
バイオメディカル教育研究センターの大学院生辻晃寛さん、小谷英治センター長と井上喜博博士は、同センターがこれまでにみいだしてきた抗老化物質sesaminをショウジョウバエ幼虫に与えたときにそれが発生過程の組織に与える影響について研究し、結果を国際誌Antioxidants(IF=6.0)に発表しました。sesamin(CAS:607-80-7)には、ショウジョウバエの成虫寿命を延長させる効果があること、筋肉、脳神経系、消化管上皮に現れる老化表現型を遅延させる効果があること、成虫脳内のとくにコリン、グルタミン酸、ドーパミン作動性神経において転写因子Nrf2(抗酸化遺伝子群の転写を誘導)が活性化されることを報告しています。一方、形成途中の組織、細胞に対する効果についてはこれまでに研究されていませんでした。本研究では、sesaminを幼虫に24時間摂食させただけでも、幼虫脳内および消化管や唾腺細胞内でNrf2が顕著に活性化されることを示しました。さらにsesamin摂食により、Nrf2の標的遺伝子群候補のうち、酸化ストレスを除去する抗酸化遺伝子群に加えて、薬剤などの解毒、代謝に必要なチトクロームP450酵素群をコードするショウジョウバエ遺伝子Cyp6a2およびCyp6g1のmRNAレベルも顕著に上昇することがわかりました。これら2つの遺伝子はDDTや昆虫の神経伝達を遮断するimidaclopridなどの農薬の代謝、解毒に関与しています。実際にこれらの農薬に耐性なショウジョウバエ系統ではこれらの遺伝子に発現上昇や変異があることも知られています。そこでsesaminをあらかじめ摂食させた幼虫にimidaclopridを与えたところ、顕著な農薬耐性は認められませんでしたが、sesaminにより、幼虫脳(中枢神経系)内の脳内の神経細胞よりもアストロサイトなどのグリア細胞内でNrf2転写因子が強く活性化されることがわかりました。今後、バイオメディカル教育研究センターでは、生体内の神経ネットワークが構築される際にsesaminがグリア細胞において抗酸化遺伝子および解毒遺伝子群の転写を強く誘導できる意味とそのメカニズムを解明したいと考えています。またグリア細胞におけるその効果が神経細胞に及ぶメカニズムについても研究する必要があります。以上の知見をもとに、sesaminが発生途中の脳内において酸化抑制、毒性物質の除去に効果があるか、哺乳動物をモデルとした検証も行ってゆきたいと考えています。DDT農薬は現在では(一部地域を除き)使用不可になっていますが、環境中に残存し続けています。体内に取り込んだ時にこれを効率よく代謝、除去できれば農薬中毒の治療にも役立ちます。今後、本学の医工連携に関連した研究としても発展が期待できます。
Akihiro Tsuji, Eiji Kotani and Yoshihiro H. Inoue “Sesamin Exerts an Antioxidative Effect by Activating the Nrf2 Transcription Factor in the Glial Cells of the Central Nervous System in Drosophila Larvae” Antioxidants 2024, 13, 787. https://doi.org/10.3390/antiox13070787