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脳のTRPM8は発熱と体温低下のスイッチングに関与する

 本学応用生物学系 宮田清司教授、博士前期課程応用生物学専攻2回生・白木千夏さんと1回生・堀川璃々花さんらの研究グループは、脳のTRPM8が発熱と体温低下のスイッチングに関与することを発見しました。本成果は、国際精神神経免疫学会 (Psychoneuroimmunology Research Society) 機関紙『Brain, Behavior, and Immunity – Health』(2021年6月26日)に掲載されました。

◇研究成果の概要

 自然免疫系は、細菌やウィルスなどの感染を認識し生体を守る生体防御機構です。感染初期は、発熱により液性ならびに細胞性免疫を増強することで、病原体を排除しようとする機構が働きます。一方、重篤な感染はサイトカインストームにより敗血症ショックを引き起こし、体温、心拍数、代謝が著しく低下し、死に至ることもあります。脳は、末梢の感染情報を受け取り、発熱あるいは体温低下の指令を出します。米ワシントン大学の研究チームの論文は、敗血症による死者が世界で年間推定1100万人に上ることを報告しています。また、コロナウィルス感染でも、サイトカインストームが敗血症状態を引きこしていることが報告されています。しかし、なぜ重篤な感染で代謝活性が低下し、体温低下が生じるのか?そのメカニズムについてはほとんど解明されていません。TRPM8は、低温度刺激(23~26℃)を感知する温度受容タンパク質で、ハッカの主成分であるメントールによっても活性化されます。メントールは、クーリング剤としてシップやシャンプーに利用されているだけでなく、抗炎症作用があることからヴェポラップなどにも活用されています。

 本論文では、グラム陰性菌の発熱物質で、自然免疫系のTLR4受容体を活性化するLipopolysaccharide (LPS) をマウスに投与し体温変化を調べました。その結果、LPSの末梢投与は野生型マウスでは発熱を生じますが、TRPM8ノックアウトマウスは逆に体温低下を示しました。さらに、脳内LPS投与でも同様の逆転現象が観察されました。TRPM8ノックアウトマウスは、LPS投与により発熱器官である褐色脂肪組織の熱産生が低下し、代謝活性が悪くなっていることも明らかになりました。以上の結果は、脳内のTRPM8が発熱と体温低下のスイッチングに重要であることを明らかにしました。また、本結果はサイトカインストームによる敗血症発症にTRPM8が重要であることを示しており、TRPM8が敗血症ショック治療の標的となる可能性が期待されます。

本論文の詳しい内容はこちら:
Role of TRPM8 in switching between fever and hypothermia in adult mice during endotoxin-induced inflammation. by Chinatsu Shiraki, Ririka Horikawa, Yuzuki Oe, Momoka Fujimoto, Kaho Okamoto, Erkin Kurganov, Seiji Miyata. Brain, Behavior, and Immunity – Health (2021) 16: 100291.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666354621000946