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哺乳類胎児を培養する新たな装置を開発  ー高温環境が胎児期の感覚神経の発生を乱すことを明らかにしました  (バイオメディカル学研究教育分野)

バイオメディカル学研究教育分野の永田竜大さん(応用生物学専攻・M2)、東島沙弥佳博士、野村真博士(バイオメディカル学・社会医工学研究センター)らの研究グループは、哺乳類胎児を体外で培養する新規の胎児培養装置を開発し、この装置を用いて、高温環境が胎児の発生過程に与える影響を明らかにしました。本研究は、京都工芸繊維大学分子化学系の斉藤大悟さん、吉田裕美博士との共同研究として実施され、その成果は組織細胞化学会の国際学術誌に掲載されました。

胎児の発生過程を詳細に解析するためには、母体から取り出した胎児を一定期間体外で培養し、その形態や組織の変化を観察する「全胚培養」が重要な手法となります。しかし、これまで用いられてきた哺乳類胎児培養装置はすでに市販されておらず、新たに実験系を構築することが困難な状況にありました。また、既存の培養システムでは、培養中の温度環境を精密かつ安定的に制御することが容易ではなく、温度などの環境要因が胎児の発生に与える影響を詳細に検討する上で課題となっていました。
 そこで研究グループは、哺乳類胎児を安定して培養できるとともに、培養環境、特に温度を制御できる新たな胎児培養装置を株式会社ベックスと共同開発しました。この装置により、胎児を体外で培養しながら、発生過程に対する温度環境の影響を解析することが可能になりました。

さらに本研究では、胎児の発生に伴って培養環境そのものがどのように変化するのかについても検討しました。培養液中のグルコース濃度や各種イオンの組成を測定することで、胎児の発生・成長に伴う培養液中の代謝産物や電解質環境の変化を解析しました。その結果、胎児が発生を進める過程で培養液の組成が変化することが示され、胎児の発生に伴う物質代謝や培養環境の動態を評価できる可能性が示されました。
 新たに開発した培養装置を用いて胎児を高温環境に曝露したところ、背側神経根とよばれる感覚神経節を構成する細胞に異常な凝集が生じることも明らかになりました。背側神経根は、感覚情報を脊髄へ伝える感覚神経細胞が集まる重要な組織であり、体幹部の分節構造として形成されます。本研究の結果は、胎児期における高温環境が、身体の分節構造の形成や感覚神経系の組織形成にも影響を及ぼす可能性を示しています。

近年、地球温暖化に伴う極端な高温環境の増加が社会的な課題となっています。本研究で開発した新しい哺乳類胎児培養装置は、高温をはじめとするさまざまな環境要因が胎児の発生に及ぼす影響を、母体の影響から切り分けて直接解析できる新たな研究基盤となります。また、培養液中のグルコースやイオン組成などを継続的に解析することで、胎児の発生に伴う代謝環境の変化を捉えることも可能になります。
 今後は、本培養装置を活用することで、温度をはじめとする環境因子が胎児の形態形成や臓器形成に及ぼす影響を解析するとともに、それらの影響をもたらす分子・細胞・代謝レベルのメカニズムの解明につながることが期待されます。

発表論文
A simple mammalian whole embryo culture system to study high-temperature effects on development.
Tatsuhiro Nagata, Daigo Saito, Yumi Yoshida, Sayaka Tojima, Tadashi Nomura.
Acta Histochemica et Cytochemica 59(4), 151-158 (2026).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ahc/59/4/59_26-00006/_pdf/-char/en