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昆虫の自然免疫系に癌を抑制する効果があることを証明:ショウジョウバエの白血病モデルを用いて自然免疫による抗癌作用のメカニズムを明らかに。新しい抗がん剤候補も同定

 バイオメディカル研究分野の井上喜博准教授と大学院生荒木麻誉さん、栗原雅典さん、木下鈴子さん、粟根理恵さんらは、造血組織が癌化するショウジョウバエの突然変異体を調べて、癌により自然免疫系が活性化すること、その産物であるAMPペプチドにガンを抑える効果があることを初めて見出しました。国際誌Dis. Model Mech.(IF=5.0)に論文が受理されました。

 脊椎動物には自然免疫系と獲得免疫系の両方が備わっていますが、それより下等な生物は自然免疫系しか持っていません。そのような生物にも癌は発生します。それらの生物が自己に由来する癌細胞に対してどのように対処しているかは長年謎でした。バイオメディカル分野ではショウジョウバエのmxc突然変異体を解析して、血液を作る組織にある未分化血球細胞が癌化(過増殖、他の組織に浸潤、転移)することをみいだしました。この変異体はハエの白血病モデルになります。この幼虫において遺伝子発現の変化をRNA-seq法により網羅的に調査したところ、自然免疫系に関連した遺伝子群のmRNAが一様に上昇していました。そこで遺伝学的手法により自然免疫経路を低下、活性化させると、それに応じて腫瘍サイズが増減しました。さらに自然免疫系の標的遺伝子の産物であるAMPペプチドを強制発現させると腫瘍組織にアポトーシスが誘導されることがわかりました。この結果は、昆虫にも癌細胞の存在を感知して、自然免疫系を活性化し、これを抑える防御機構が存在することを示しています。これらのペプチドは脂肪体で作られ、体液中に分泌されたのち、マクロファージ様の細胞に取り込まれ、腫瘍に運ばれます。この細胞がどのようにして癌を認識しているかについてさらに研究を進めています。本研究は、ショウジョウバエのペプチドがその癌を抑制できるという結果ですが、これらのペプチドは哺乳類にも存在しています。したがって同じような効果があれば、抗がん剤として使用できます。ショウジョウバエでは同ペプチドを大量発現させても腫瘍組織以外にアポトーシスは観察されません。したがってこれらのペプチドは副作用のない安全な抗がん剤になる可能性もあります。

 バイオメディカル研究分野では、以上の成果をもとに京都府立医大と共同で、哺乳類の相同なタンパク質にも同じ抗腫瘍効果があるのか検討を始めています。今後、新たな抗がん剤開発に向けて製薬企業との共同研究もめざします。

Araki, M., Kurihara, M., Kinoshita, S., Awane, R., Sato, T., Ohkawa,Y., and Inoue, Y. H. “Anti-tumor effects of antimicrobial peptides, targets of the innate immune system, against hematopoietic tumors in Drosophila mxc mutants.Disease Models and Mechanisms 2019; in press (accepted 10thMay 2019)