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癌細胞が示す特徴(染色体数の不安定性)が生じるメカニズムの一端をショウジョウバエモデルを用いて解明

バイオメディカル研究分野の井上喜博准教授と大学院生田辺加琳さん、正田健さん、山添幹太さんらは、ショウジョウバエを材料にして、癌細胞の特徴である「染色体数の不安定性」が生じる過程の一例を初めて明らかにし、Cell Struct. Funct. 誌(IF=3.5)に発表しました。

 

正常な細胞は分裂しても常に決まった数の染色体を持っています。これに対して、癌細胞の多くは分裂ごとに染色体数が変化するという性質(染色体数の不安定性と呼ばれる)を示します。その頻度は悪性度の高い癌細胞ほど高い。したがって細胞分裂の制御機構の異常と癌化との間には密接な関係があることは提唱されてきましたが、それが生じるメカニズムについては、不明な点が多く残されています。バイオメディカル分野では、昆虫モデルを用いて癌化の研究をおこなっています。ショウジョウバエのmxc突然変異体では、血液を作る組織内の未分化細胞が癌化(過増殖、他の組織に浸潤、転移)することをみいだしました。この変異体の細胞は染色体の不安定性を示します。そこでこの変異体において、染色体が作られ、娘細胞に分配される過程を追跡観察しました(当分野が開発したライブ観察システム)。その結果、この遺伝子の産物はクロマチンを構築するヒストンの発現に必要なこと、変異体ではこれが低下しているため染色体構造が脆弱になる。その結果、染色体が分裂途中で切断される。染色体断片は分配されずに微小核が生じる。これが染色体数の不安定性の原因となることがわかりました。RNA-seq法により遺伝子発現を網羅的に解析した結果、変異体では増殖制御遺伝子の発現が変化していました。このように一部の染色体領域に過不足が生じても、細胞全体の遺伝子発現は変化し、細胞増殖や分化の制御が異常となります。これが癌化と密接に関連すると考えています。バイオメディカル研究分野では、血球由来の癌細胞が著しく増殖して浸潤、転移する、他の突然変異体についてもその癌化メカニズムを遺伝子レベルで明らかにしようとしています。

 

Karin Tanabe, Rie Awane, Tsuyoshi Shoda, Kanta Yamazoe, and Yoshihiro H. Inoue. “Mutations in mxc tumor-suppressor gene induce chromosome instability in Drosophila male meiosis”

Cell Structure and Function 2019; in press (accepted 31thAugust 2019)