sp_menu

カイコ繭糸セリシンのバイオマテリアル利用に適した遺伝子組換えカイコの作出に成功。国際誌International Journal of Molecular Sciences(IF=6.208)に掲載

 昆虫工学の博士後期課程学生Lian, AI AIさん、丸田莉奈さん(現JT)及び博士前期課程の山地由夏さん、梶原紀輝さん、小谷英治教授らの研究により、サイトカインの一つであるFGF-7を封じ込めたセリシン繭(セリシンだけでできた繭)を吐き出すカイコを遺伝子組換え技術で作り出しました。セリシンは、繭糸の絹フィブロイン繊維の外側にあり、糸を繋ぎ止める膠の役目を持つ複合タンパク質層です。これまでの昆虫工学の研究で、絹フィブロインを作らずセリシンだけでできた繭を吐くカイコが得られていました。FGF-7を発現し、これを取り込んだセリシン繭を作るカイコを更なる遺伝子組換え操作により得ました。セリシン繭は丈夫な繊維構造物を内部に含まないため、簡単に粉砕処理をすることができ、粉末化が容易です。本研究では、この粉末を皮膚モデル細胞であるケラチノサイトの培養への導入を試みました。セリシンはメッシュ状のタンパク質構造体で、培地を介して内外の連絡が容易であり、培地中にFGF-7を放出する性質のあることが認められました。さらに、FGF-7の活性を長期間保持することにセリシンの構造が貢献することもわかりました。また、3D上皮細胞モデルを作る上で、セリシンが役立つこともわかりました。近年の研究で、純粋なセリシンは絹アレルギーの原因であるカイコ由来のアレルゲンをほとんど含まない形で調製できることもわかっています。むしろ、セリシンは免疫を賦活しにくい生体適合性の高いタンパク質であると言えます。カイコを使うことで安価に長期間安定なFGF-7含有バイオマテリアルを作り出すことが可能であることがわかりました。

 

Lian A. A., Yamaji Y., Kajiwara K., Kotani E., Maruta R. et al.

A Bioengineering Approach for the Development of Fibroblast Growth Factor-7-Functionalized Sericin Biomaterial Applicable for the Cultivation of Keratinocytes

Int. J. Mol. Sci. 2022, 23(17), 9953; https://doi.org/10.3390/ijms23179953 

(8月29日受理,9月1日公開)