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ショウジョウバエの発がんモデルを用いて白血病の悪性化メカニズムに関するモデルを発表

 バイオメディカル学分野の大学院生栗原正典さん、寳田一樹さんと井上喜博教授は、血球細胞を作る組織が腫瘍化するショウジョウバエのmxc突然変異体の癌化表現型がさらに悪性化する(癌の進展)メカニズムを解析して,そのモデルをGene to Cells誌(Willey Publisher)に発表しました。

 

 ショウジョウバエの体液中にも血球細胞が存在しますが,その大半はマクロファージ様の細胞です。それらは主にlymph glandとよばれる造血組織で作られます。この組織が癌化するmalignant blood neoplasm1突然変異体ではmxc遺伝子の変異により造血組織内の未分化細胞が過剰増殖します。体液中にも多くの未分化な血球細胞が存在し,それらは他の組織にも浸潤します。この表現型はヒトの白血病や悪性リンパ腫に似ているので,バイオメディカル学分野ではこれを白血病のモデルにして,発癌および癌の悪性化に関する研究をおこなっています。今回,細胞を増殖させるRas-MAPキナーゼカスケードを構成的に活性化させることにより,造血組織内の未分化細胞の過剰増殖がさらに促進され,癌の肥大化がおきるとともに,体液中の未分化血球細胞も増加することを見出しました。この際,組織が脆弱になっていましたが,これは造血組織内の細胞接着因子カドヘリンの減少によることがわかりました。その原因を解析したところ,カドヘリン遺伝子の転写活性化に必要なMCRIPが同キナーゼによりリン酸化され,機能を失うことにより同遺伝子がサイレンシングされることが造血組織の悪性化に関与していることがわかりました。さらにこの癌ではカドヘリンを分解するMMP1プロテアーゼの発現も上昇していました。したがってカドヘリンの発現低下と分解促進により,細胞接着が緩くなり,造血組織の癌化が促進されたと考えられます。ヒトリンパ腫でもRAS/MAPKカスケードが異常活性化している例があります。増殖を促進させると同時に細胞接着を低下させることにより,未分化細胞の放出促進,癌細胞の浸潤,転移を促進している可能性が考えられます。

 

Kurihara, M., Takarada, K., and Inoue, Y.H. “Enhancement of leukemia-like phenotypes in Drosophila mxc mutant larvae due to activation of the RAS-MAP kinase cascade possibly via down-regulation of DE-cadherinGene Cell 2020 (accepted 9/26/2020)