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ショウジョウバエモデルを用いて1型糖尿病の発症メカニズムの一端を解明

 バイオメディカル研究分野の井上喜博准教授と大学院生勝部弘花さん、日南由紀子さん(卒業生),大学院生山添樹生さんらは、ショウジョウバエをモデルにして小胞体ストレスの蓄積が1型糖尿病の発症に繋がることを明らかにし、Biology Open誌に発表しました。

 糖尿病にはインスリンが産生できない1型とインスリンが効かない2型があります。このうち1型糖尿病は膵臓ランゲルハンス島にあるベータ細胞が減少してゆくことにより発症します。その原因としてはウイルス感染や自己免疫疾患によると考えられてきましたが,最近では,例えば小胞体ストレスなどの細胞ストレスによりインスリン産生細胞が損傷を受けることがこの疾患の発症と関連があるとの説が提唱されるようになってきました。これを証明するのは,体内にあるごく一部の特定細胞にストレスを与え,その影響を調べるという個体レベルの解析が必要となります。そこでバイオメディカル教育研究分野では,このような個体を用いた実験に最適なショウジョウバエを用いて,そのインスリン産生細胞特異的に小胞体ストレスを蓄積させることに成功しました。細胞には小胞体ストレスに応答してこれを除去しようとする反応(UPR)が存在しますが,これで処理できないストレスが蓄積するとインスリン産生の低下,さらにアポトーシスが生じ,IPCの数が減少することを見出しました。その結果,体液中の血糖量が上昇(すなわち糖尿病状態)し,生育が阻害されることがわかりました。インスリン産生細胞への小胞体ストレスの蓄積が1型糖尿病の発症につながることをモデル生物を用いて実験的に示すことができました。

バイオメディカル研究分野では、ショウジョウバエの1型糖尿病モデルを用いて,さらに小胞体ストレスが酸化ストレスも誘導すること,酸化ストレス阻害剤が1型糖尿病モデルの症状を緩和できることも見出しています。このモデルを用いて新たな糖尿病治療薬の開発をめざした探索もおこなってゆく予定です。

 

Hiroka Katsube, Yukiko Hinami, Tatsuki Yamazoe, and Yoshihiro H. Inoue. “Endoplasmic reticulum stress-induced cellular dysfunction and cell death in insulin-producing cells results in diabetes-like phenotypes in Drosophila.Biology Open 2019; in press (accepted 2nd December 2019)