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ヒト変異型インスリンが小胞体ストレスを誘発し、糖尿病が発症するメカニズムについてモデル昆虫を使って解明(Int. J. Mol. Sci.に発表)

 バイオメディカル学分野の大学院生山添樹生さん、卒業生の中原康之さん、勝部弘花さんと井上喜博教授は、ショウジョウバエをモデルにして、ヒト変異型インスリンが小胞体内に蓄積することによっておきる小胞体ストレスがヒト持続性新生児糖尿病(PNDM)の発症要因となることをつきとめました。この研究成果を国際誌Int.J.Mol.Sci.(IF=5.923)に発表しました。

 ヒトPNDMは乳児期に発症し、生涯糖尿病状態を持続する遺伝的疾患です。この疾患の中にはインスリン遺伝子の変異が原因と考えられる症例も報告されていますが、発症との因果関係は明らかにされていませんでした。そこで膵臓β細胞から分泌できないPNDM患者由来の変異型プレプロインスリン2種類を、ショウジョウバエのインスリン産生細胞(IPC)特異的に発現させ、生体への影響を調べました。正常なヒトインスリンは個体の栄養状態に応じてIPCから分泌され、その結果、ショウジョウバエの成長が促進されました。これに対して、ヒト変異型をIPCで発現させると、3つの小胞体ストレス応答経路のうちIRE1経路が活性化され、転写因子XBP1 mRNAのスプライシング、小胞体ストレスを軽減させるシャペロンが発現誘導されました。変異型インスリンの発現が続くと、小胞体ストレスが除去できずに蓄積します。このため野生型インスリンのような生育促進効果はみられず、むしろグルコースの取り込み不全による栄養不足に似た生育不良が生じました。この際、変異型インスリンが蓄積したIPCではcaspaseの活性化はみられず、細胞数の減少には至りませんが、機能不全が起きている可能性が示唆されました。本研究では小胞体ストレスによりGadd45が誘導されること、炎症に関わるJAK/STATも活性化されることもわかりました。バイオメディカル分野では、このモデル系を用いて、生体内で小胞体ストレスの感知、細胞内伝達、応答反応の誘導機構を明らかにするとともに、小胞体ストレスの緩和剤がこのモデルの症状を緩和できるか調べ、新たな糖尿病薬の探索、評価を行ってゆく予定です。

Tatsuki Yamazoe, Yasuyuki Nakahara, Hiroka Katsube, Yoshihiro H. Inoue: Expression of human mutant preproinsulins induced unfolded protein response, Gadd45 expression, JAK-STAT activation, and growth inhibition in Drosophila. Int.J.Mol.Sci (10/27/2021受理)