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マウス受精卵に対するゲノム編集技術を用いた新たなヒト先天性疾患モデルを確立

バイオメディカル学のNguyen Thi My Trinさん(博士後期課程・IGPコース)、池田蒼太さん(応用生物学専攻)、東島沙弥佳博士、野村真博士(社会医工学研究センター)のグループは、脳や骨格の発生制御に重要な役割を果たすタンパク質Gli3に注目し、CRISPRを用いたゲノム編集技術によりタンパク質のC末端を破壊した
新たな疾患モデルマウスを作製しました。このマウスでは中枢神経系の発生異常や四肢骨格の形成異常が認められ、ヒトのGLI3変異が原因で起こる先天性疾患と類似した
症状を示すことが明らかとなりました。さらに本研究により、これまで生理的意義が不明であったGli3のC末端側が、Gli3タンパク質の機能発現に不可欠であることを見出しました。
これらの研究成果は発生生物学の国際雑誌に掲載されました。

胎児期における器官発生過程はさまざまなタンパク質や遺伝子のはたらきによる緻密な制御を受けています。
GLI3 遺伝子は、発生過程に重要な役割を果たすヘッジホッグ(HH)シグナルを伝達することで、脳や四肢を含むさまざまな身体構造の発生に根本的な役割を果たしています。
GLI3 遺伝子の変異は、Greig 頭蓋多指症症候群や Pallister-Hall 症候群などのヒト希少先天疾患の原因となります。さらに近年、
古代人型ヒトに由来するGLI3変異が、マウスにおいて下流遺伝子の制御や解剖学的構造を変化させたことも、著者たちの研究により報告されています。
しかしながら、Gli3 C 末端領域の完全な破壊がもたらす生物学的影響については、これまで十分に研究されていませんでした。
本研究では、CRISPR/Cas12a を用いたゲノム編集技術 (i-GONAD法)により、C 末端にナンセンス変異を持つ新規 Gli3 変異マウスを作製しました。
遺伝子型と表現型の相関解析から、Gli3 の C 末端領域は機能的タンパク質の合成に不可欠であり、この領域の破綻が脳および指の形成に深刻な異常を引き起こすことが
明らかとなりました。これらの結果は、GLI3 変異がヒトの発生過程に重篤な影響を与えるメカニズムや、
進化の過程で多様な表現型がもたらされる仕組みについての理解を深めるものと期待されます。

C-Terminal End of Gli3 Is Critical for Functional Protein Synthesis and Gli3-Dependent Anatomical Development
Nguyen Thi My Trinh, Sota Ikeda, Ako Agata, Sayaka Tojima, Tadashi Nomura
Development, Growth & Differentiation (2025) doi: 10.1111/dgd.70033.