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マクロファージ様の細胞が癌を認識して、その情報を離れた組織に伝える組織間コミュニケーションの重要性を実験動物を用いて明らかにしました(バイオメディカル分野)

体内に癌細胞が生じるとそれらは最初に自然免疫系により認識されます。その情報が免疫担当組織に伝達されるとそこで癌を抑制するタンパク質が合成される場合があります。ところが、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。バイオメディカル分野の大学院生木下樹理さん、野村真教授と井上喜博博士は、血球細胞を作る組織が癌化して白血病様の表現型を示すショウジョウバエの突然変異体を解析し、体液中のマクロファージ様細胞が癌を認識すること、その情報を脂肪体に伝達すること、そこで抗癌タンパク質が作られること、それが癌にだけアポトーシスを誘導することをつきとめました。その成果を分子生物学の国際誌International Journal of Molecular Sciences(IF=4.9)に発表しました。

ショウジョウバエmxc遺伝子の突然変異体では血球細胞を作る組織が悪性腫瘍になります。癌を持つ個体では癌抑制タンパク質Turandots(Tots)が脂肪体で作られます。木下さんらは体液中に存在するマクロファージ様の細胞が癌の認識と脂肪体への情報伝達に重要な役割を果たすことを明らかにしました。この変異体の体内では腫瘍および脂肪体にマクロファージ様細胞が集まります。この腫瘍では、腫瘍壊死因子(TNF)に相同なEigerタンパク質が高発現していました。これらのマクロファージでEigerに対する受容体を低下させると腫瘍への集積が阻害されます。したがって、この細胞が 癌が発現するTNF様因子を受容し、その後、癌に関する情報を脂肪体に運んでいると考えました。この因子を受容すると、その下流でc-Jun N末端キナーゼ(JNK)を介するシグナル伝達経路が活性化しました。その結果、癌を認識した細胞でUpd3というサイトカイン(哺乳類のIL-6に相同)が作られました。 このマクロファージが体液中を脂肪体に移動してUpd3を放出すると、それに反応して脂肪体内のJAK/STAT伝達経路が活性化しました。するとこの経路の標的であるTots遺伝子が転写され、癌抑制タンパク質が作られます。脂肪体から体液中に分泌されたTotsタンパク質は別のマクロファージに取り込まれて、腫瘍に運ばれることもわかりました。木下さんらは以下のモデルを提唱しています。マクロファージが、腫瘍から出るTNF様因子を受容、細胞内シグナル伝達系が活性化、IL6様サイトカインの発現、脂肪体へ細胞が移動、そこで同サイトカインの放出、脂肪体内のシグナル伝達系の活性化、抗癌蛋白質Totsの発現、分泌をおこなう。別のマクロファージ様細胞がこれを取り込み、腫瘍へ移動、放出。その結果、腫瘍特異的にアポトーシスが誘導されると考えています。本研究は、体液中のマクロファージ様細胞を介した組織間の複雑なコミュニケーションが癌の抑制に重要なことを明らかにしました。今後、哺乳類の癌への適用が期待できます。

Macrophage-like Blood Cells are involved in Inter-tissue Communication to activate JAK/STAT Signaling, inducing Antitumor Turandot Proteins in Drosophila Fat Body via the TNF-JNK pathway  Juri Kinoshita, Yuriko Kinoshita, Tadashi Nomura, and Yoshihiro H. Inoue  Int. J. Mol. Sci. 2024, 25, 13110. https://doi.org/10.3390/ijms252313110