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ミトコンドリアDNAの損傷が筋肉の老化を促進するメカニズムについてモデル昆虫を使って解明(国際誌Biomolecules(IF=6.064)に発表)

  バイオメディカル学教育研究分野の大学院生尾崎未佳さん、博士研究員のTuan Dat Leさんと井上喜博教授は、ショウジョウバエをモデルにして、ミトコンドリアDNAの損傷が蓄積すると、筋肉内でオートファジー、アポトーシスが促進され、それが筋肉老化を進める原因になることをつきとめました。この論文は国際誌 Biomolecules (IF=6.064) に投稿し、受理されました。ミトコンドリアの電子伝達系ではATPが産生される際に副産物として活性酸素種と呼ばれる酸化能の高い物質が作られます。これがミトコンドリアが有するDNAやタンパク質を酸化損傷することがあります。古くから、ミトコンドリアの機能低下が生体老化の主な原因であるとする仮説が提唱されてきました。が、それを実証するには十分な証拠が得られていませんでした。この研究では、寿命の短いショウジョウバエをモデルに用いて、成虫の筋肉内に多数含まれるミトコンドリアが有するDNAの修復を阻害すると、筋肉老化が促進されるか調べました。DNA ポリメラーゼ(Polγ)は、ミトコンドリアDNA の複製と修復を行う唯一のDNAポリメラーゼです。これを作る遺伝子をRNA干渉法により筋肉だけで低下させました。その結果、酸化損傷されたDNAを持つミトコンドリアが筋肉内に蓄積しました。その結果、筋肉内ではミトコンドリアの機能低下、ATP量も減少しました。このような処理をした成虫の筋細胞では、異常なミトコンドリアを除くオートファジーあるいはマイトファジーという細胞現象が促進されていました。さらに筋細胞のアポトーシスも活性化されていました。このような成虫の筋肉を透過型電子顕微鏡で観察すると筋原線維とミトコンドリアの形態異常が頻繁に観察されました。また、異常なミトコンドリアを持つ成虫は、運動能力の低下、概日性リズムの乱れなど、高齢者に見られる老化症状があらわれること、寿命も短くなることがわかりました。今回の結果は、ミトコンドリアDNAの損傷が筋肉の老化につながるという説を支持する証拠になります。

  さらにバイオメディカル分野では、老化モデル昆虫の筋肉老化を抑制できる薬剤、天然物を探索し、ヒトの老化を遅延させる効果のある健康食品の開発を進めています(国際共同研究(タイ国チェンマイ大学医学部(本学協定校)、国内食品関連企業との参学共同研究)。

Mika Ozaki, Tuan Dat Le, Yoshihiro H. Inoue: Downregulating mitochondrial DNA polymerase γ in the muscle stimulated autophagy, apoptosis, and muscle aging-related phenotypes in Drosophila adults. Biomolecules (8/9/2022受理)