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動物(昆虫)モデルを用いて白血病の発がんメカニズムの一端を明らかに

 バイオメディカル学教育研究分野の大学院生栗原正典さん、小松洸陽さんと井上喜博教授らは、ショウジョウバエの血球細胞を作る組織が悪性腫瘍化するmxc突然変異体を解析して,その発がんメカニズムに関するモデルを国際誌International Journal of Molecular Sciences誌(IF=4.183)に発表しました。

 

 ショウジョウバエの体液中にも血球細胞が存在しますが,その大半はマクロファージ様の免疫担当細胞です。それらの細胞は主にlymph glandとよばれる造血組織で作られ,体液中に分泌されます。この組織が癌化するmxc突然変異体が単離されています。この変異体ではmxc遺伝子という単一の遺伝子が変異することにより造血組織内の未分化細胞が異常に増殖します。体液中にも多くの異常な血球細胞が観察されます。それらは他の組織にも浸潤します。この表現型はヒトの白血病や悪性リンパ腫に似ているので,それらの癌の動物モデルになります。しかし、この遺伝子変化により造血組織が癌化する発がんメカニズムはわかっていませんでした。バイオメディカル学分野の研究グループは,この遺伝子の機能が成熟血球細胞内で低下することが癌化の原因であること、その変化によりヒストンを作るmRNAの修飾が異常になること、ヒストンの変化に伴い、癌関連遺伝子群のmRNA量も変化することを見出しました。この異常により同組織内の未成熟細胞が過剰増殖,癌化することを突き止めました。正常な造血組織では,成熟血球細胞からAdgf-Aという液性因子が分泌され,これが未分化細胞の増殖を抑えています。同変異体においてこの発現が低下することが癌化の原因になっていることがわかりました。これと相同な遺伝子はヒトにも存在しています。それの機能低下が白血病やリンパ腫の原因になる可能性も考えられます。同研究分野では、この白血病モデルの癌細胞に作用してアポトーシスを誘導するペプチドも見出しています(Araki et al., 2019)。それらのペプチドは哺乳類を始め広く多細胞生物に保存されています。現在、医学部と共同で抗がん剤として使用できるか、検討をおこなっています。

 

Masanori Kurihara, Kouyou Komatsu, Rie Awane, and Yoshihiro H. Inoue “Loss of Histone Locus Bodies in the mature hemocytes of larval lymph gland results in hyperplasia of the tissue in mxc mutants of Drosophila.Int. J. Mol. Sci. 2020 (accepted 24 Feb 2020)