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癌を抑制するタンパク質(Turandot)を モデル生物を使って同定し、そのメカニズムを明らかにしました(バイオメディカル分野)

バイオメディカル学教育研究分野の大学院M2木下由利子さん、卒業生白土尚香さん、井上喜博教授は、自然免疫系経路のひとつJAK/STAT経路を介して誘導されるショウジョウバエの新しいサイトカイン(Turandot)に癌を抑制する効果があることをみつけ、Cells誌(IF=6.0, 6.7(5years))に発表しました。ショウジョウバエに細菌などが感染するとToll受容体やImdタンパク質を介する自然免疫経路が活性化され、哺乳類のサイトカインに似た低分子量のタンパク質(Anti-microbial Peptides:AMP)が誘導されます。バイオメディカル学教育研究分野では、これらのAMPに癌を抑制する効果もあることを世界で初めて発見し、報告しました(2019年HP掲載)血球細胞を作る造血組織が癌になるショウジョウバエのmxc突然変異体(白血病モデル)では、上記の自然免疫経路のほかに、JAK/STATと呼ばれるシグナル伝達経路が活性化されていました。その結果、Turandotと呼ばれる一群のサイトカインが強く誘導されていることを発見しました。これらのTurandotタンパク質は幼虫体内の脂肪体で合成され、体液中に分泌されます。それを体液中にあるマクロファージが取り込んで、腫瘍まで運んでいることがわかりました。Turandotタンパク質をmxc変異体で大量発現させると癌が抑制され、発現を低下させると癌の増殖が促進されました。したがってTurandotには癌を抑制する効果があると言えます。このメカニズムを遺伝学的手法により解析しました。Turandotはマクロファージに取り込まれた後、腫瘍の上で放出されます。すると腫瘍細胞にアポトーシスが誘導されることが分かりました。さらに癌細胞の増殖を抑制する効果も認められました。ところが正常な幼虫体内でこれらを大量発現させても、正常な細胞の増殖を抑制することはありませんでした。

以上の結果から、Turandotはショウジョウバエの癌に特異的に作用する抗癌蛋白質であると言えます。哺乳類にもJAK/STATシグナル伝達経路は保存されており、これを介して発現誘導されるサイトカイン様のタンパク質も存在しています。今回みつかったTurandotファミリーに類似なタンパク質がヒトを始め哺乳類にも保存されている可能性もあります。これらのタンパク質は長さが120アミノ酸と短いので、化学合成も可能です。癌細胞だけを特異的に抑える、新しい抗癌剤として期待でます。バイオメディカル分野では、癌細胞に対する特異性が高く、副作用がない抗癌剤の開発をめざして産学共同研究等も進めてゆきます。

 

Anti-tumor effect of Turandot proteins induced via the JAK/STAT pathway in the mxc hematopoietic tumor mutant in Drosophila. Yuriko Kinoshita, Naoka Shiratsuchi, Mayo Araki, Yoshihiro H. Inoue Cells (2023) 12, 2047. https://doi.org/10.3390/cells12162047