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精子が作られる際に減数分裂のスイッチを入れる制御メカニズムの一端を明らかにしました(バイオメディカル分野)。

バイオメディカル分野の大学院生(バイオテクノロジー専攻D3)山添幹太さんと井上喜博教授は、ショウジョウバエ雄の減数分裂を開始させる制御機構について解析し、真核生物に共通な開始因子が核―細胞質間を行き来することがその活性化に必要であることをCells誌(IF=7.666(2022-2023))に発表しました。

細胞分裂は、サイクリンという調節因子が作られ、Cdk1キナーゼに結合することで同キナーゼが活性化し、それが他のタンパク質をリン酸化することにより始まります。この過程でキナーゼ内の特異的なアミノ酸残基がリン酸化および脱リン酸化される必要があります。この開始機構は酵母からヒトまで真核生物の間で共通です。さらに体細胞を増やす通常の有糸分裂も生殖細胞を作る際の減数分裂もその開始制御は同じと考えられてきました。ところが、山添さんらは、ショウジョウバエ雄の減数分裂の際に核膜上にある核膜孔の構築を阻害すると、このキナーゼ複合体が核から出られずに、その結果、減数分裂が始まらないことを見つけました。有系分裂ではこのような阻害はみられません。したがって両者の制御機構は同じではないことが明らかになりました。サイクリンタンパク質の動きを観察するため、これにGFP(緑色蛍光タンパク質)を付加した融合タンパク質を減数分裂細胞内で発現させました。その蛍光を特殊な蛍光顕微鏡装置を使って追跡観察したところ、精子の前駆細胞内では減数分裂前にこのタンパク質が核と細胞質を行き来していることが証明されました。さらにその核―細胞質の移入と排出に必要なタンパク質もそれぞれ同定できました。Cdk1とその修飾酵素との間のタンパク質間相互作用を視覚化できる方法を用いて調べた結果、サイクリン-Cdk1複合体の運搬が阻害されると、核あるいは細胞質に存在する修飾酵素(Cdk1を特異的にリン酸化あるいは脱リン酸化する)がこの複合体に作用できないこと、そのためCdk1が活性化されないことがわかりました。これが減数分裂が開始できない原因と考えられます。

哺乳類ではIPS細胞から生殖前駆細胞を作り出す技術が開発されつつあります。ところがそのあとの減数分裂を始める制御機構については未解明な問題点が残されていました。今回、細胞内で核―細胞質間の運搬が重要な鍵を握ることが明らかになったので、将来、さらにこのような研究が進めば、この過程を人為的にコントロールできるような生殖医療技術の開発も不可能ではないと考えています。

 

Kanta Yamazoe and Yoshihiro H. Inoue “Cyclin B export to the cytoplasm via the Nup62 subcomplex and subsequent rapid nuclear import are required for the initiation of Drosophila male meiosis” Cells 2023, 12, 2611. https://doi.org/10.3390/cells12222611

(2023年11月9日受理)