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細胞内の中心小体の長さを一定にする分子メカニズムを解明(Journal of Cell Scienceに発表)

 バイオメディカル学分野の大学院生正田健さん,山添幹太さん、4回生田中友梨さんと井上喜博教授は、細胞内小器官の中心小体が一定の長さに複製される分子メカニズムを解明して, Journal of Cell Science誌(IF=4.573)に発表しました。

 中心体は細胞内の微小管形成中心と働き,細胞分裂の際には紡錘体の核として働くなど細胞分裂を制御する中心的な役割を演じます。また分裂間期では細胞極性の形成・維持な役割を担っています。癌細胞では中心体の数や構造が異常になっている例が多数観察されます。100年前の細胞生物学者テオドール・ボヴェリ(独)が「中心体が癌のカギを握る」という有名なボヴェリの予言を提唱していますが,それがどのように細胞の癌化と関連するのかは,長年,細胞生物学の課題のひとつでした。中心体は,高校の教科書にもあるように、一対の中心小体(または中心粒)とその周辺物質によって構成されています。中心小体は9つの三連微小管が円周上に並んだ長さ1μm程度のシリンダー構造なので,電子顕微鏡でないと観察できず,その構造は謎につつまれていました。最近になって,光学顕微鏡の解像限界を超える超解像度顕微鏡が開発され,微細な細胞内構造も比較的容易に詳しい構造解析ができるようになりました。バイオメディカル分野ではN-SIM型の超解像度顕微鏡を使って,ショウジョウバエの雄減数分裂をおこなう精母細胞が持つ中心小体を詳しく観察してきました。その結果,微小管の重合を促進するOrbitタンパク質 (本学が世界に先駆けて同定)と脱重合を促進する因子Klp10Aが拮抗的に働き,一定の長さの中心小体が複製されることを明らかにしました。どちらかの活性が強いと,異常な長さの中心小体ができてしまいます。長すぎる中心小体ができた場合は断片化します。するとその小片が細胞分裂の際に紡錘体の極として働いてしまいます。そのため染色体の分配が異常になってしまうことを明らかにしました。中心小体の構造が異常な癌細胞で染色体数が一定に保たれないのは(癌の特徴)このようなメカニズムによると考えています。

Shoda, T., Yamazoe, K., Tanaka, Y., Asano, Y., and Inoue, Y.H.Orbit/CLASP determines centriole length by antagonising Klp10A in Drosophila spermatocytes.Journal of Cell Science 2021 Mar 26;134(6):jcs251231. doi: 10.1242/jcs.251231. (accepted 2/10/2021)