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細胞内の小胞体―ゴルジ体間のタンパク質輸送(順行輸送)を担うCOPII小胞は細胞分裂においても必須な機能を担うことを明らかにしました(バイオメディカル分野)。

 細胞内にある小胞体からゴルジ体へのタンパク質の順行輸送はCOPIIと呼ばれる被膜小胞により行なわれます。この小胞は分裂間期のみに構築され、細胞分裂期には細胞内のタンパク質輸送が抑制されると考えられてきました。ところが、今回、バイオメディカル分野の大学院生松浦巧樹さん、貝塚加奈さん(卒業生)と井上喜博教授は、ショウジョウバエ雄の減数分裂細胞においてCOPII小胞の構築および輸送を生きたまま顕微鏡観察することに成功し、この小胞が細胞分裂期の細胞質分裂に必須なことをつきとめました。その成果を国際誌International Journal of Molecular Sciences(IF=5.6)に発表しました。

 タンパク質の細胞内順行輸送を担うCOPII小胞は4つのサブユニットとそれらの集合を制御する低分子GTPaseであるSar1から作られます。松浦さんらは細胞分裂のひとつである減数分裂をおこなう細胞でもCOPII小胞がSar1依存的に作られていることを証明しました。これらの因子を減数分裂細胞特異的にノックダウンするとCOPII小胞は形成されません。この時、染色体は正常に分配されますが、そのあとの細胞質分裂が阻害されることがわかりました。細胞膜を蛍光標識してその変化を経時観察したところ、細胞膜の陥入は始まるものの、途中で停止し、陥入前の状態に戻っていました。細胞質分裂時にはアクチンやミオシンなどから構成された収縮環と呼ばれるリング構造が膜に結合した状態で作られます。それが狭まることにより細胞膜が引っ張られ、陥入してゆきます。収縮環を蛍光標識して、その動きを連続(タイムラプス)観察したところ、COPII小胞がなくてもこの構造は細胞膜直下にいったん作られるが、それが収縮するにつれて細胞膜から外れてしまうことがわかりました。COPII小胞がないと収縮環リングと細胞膜との結合が維持できないと考えられます。細胞膜と収縮環との結合に必要な因子の供給あるいは細胞膜の伸長に必要な細胞膜成分の供給をCOPII小胞が担っている可能性が考えられます。細胞接着に必須なカドヘリンがSar1依存的に小胞に取り込まれ、細胞質分裂時に分裂面に運ばれる様子も観察されました。カドヘリンは収縮環の安定性に寄与するので、COPII小胞が運ぶ運搬タンパク質の候補と考えられます。細胞外に分泌されるタンパク質や細胞膜に局在するタンパク質の多くは小胞体で合成され、ゴルジ体を介して輸送されます。これらを内包して輸送する被膜小胞COPIIの構築と運搬のメカニズムは細胞生物学だけでなく構造生物学の分野でも注目を集めています。今後、生物学の分野横断的な研究として発展が期待できます。

 

Yoshiki Matsuura, Kana Kaizuka, and Yoshihiro H. Inoue “Essential role of COPII proteins in maintaining the contractile ring anchoring to the plasma membrane during cytokinesis in Drosophila male meiosis” Int. J. Mol. Sci. 2024, 25(8), 4526; https://doi.org/10.3390/ijms25084526 (2024年4月17日受理)