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風邪をひいた程度の軽い炎症でも脳のミクログリアは増殖している ― 意外なミクログリアの挙動と脳疾病発症機構解明への手がかり ―

 生体機能学研究分野の宮田清司教授と学術振興会特別研究員(DC1)/博士課程大学院生の古部瑛莉子さんらは、風邪程度の炎症でも脳内免疫担当細胞であるミクログリアの増殖が、脳の多くの部位でおきていることを発見しました。

 脳の免疫担当細胞であるミクログリアは、正常状態においては不必要な物質を除去したり、細胞を貪食することで、脳内環境恒常性維持のために重要な役割を担っています。しかし、脳疾病状態ではミクログリアの異常活性化や増殖による暴走が起き、病状の悪化を引き超すことが知られています。さらに、うつ病や統合失調症などの精神疾患は、脳が持続的炎症状態であると考えられており、精神疾患の発症が風邪などの感染・発熱により引き起こされる場合もあることが報告されています。例えば、慢性ストレス状況下では、軽い脳炎症の兆候である37~38℃の微熱が持続することが報告されています。今まで、ミクログリアの増殖は、脳梗塞やアルツハイマー病などの重度の脳疾病でおきるが、弱い脳の炎症ではおきないと信じられてきました。

 本研究では、グラム陰性菌由来の発熱・炎症物質LPSを低用量投与し、発熱を伴う弱い炎症を引きおこさせ、マウス脳でミクログリアの増殖と密度を調べました。その結果、脳室周囲器官(血液脳関門を欠き、脳の炎症を開始する4か所の脳部位)、体温調節中枢(視索前野)、弓状核(摂食中枢)、孤束核(迷走神経統合中枢)において顕著なミクログリア増殖がおきていることが明らかになりました。さらに、発熱・炎症物質LPSを高用量投与して炎症を重症化させると、大脳や海馬などの一部の脳部位を除くほとんどすべての脳部位でミクログリアが増殖していることがわかりました。驚くべくことに、このミクログリア増殖は一過性で、炎症後3週間程度でミクログリア密度は正常レベルに戻っていました。

 以上の研究結果は、風邪程度の軽い感染症でもミクログリアの増殖がおきていることを証明しました。このことは、脳のミクログリアが、今まで考えられていたよりも容易に増殖することを示しています。一方、ミクログリアが増殖し高密度状態が何らかの理由で元に戻らない場合は、暴走化し精神的脳疾病の発症につながる可能性があることを示唆しており、精神疾患発症機構解明の手がかりになると考えられます。

 本研究は、2018年2月2日Scientific Reportに掲載されました(←クリックで該当雑誌のページにジャンプします)。