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リグナン類化合物Sesaminによるショウジョウバエの老化抑制効果に関する作用メカニズムを解明(Antioxidants誌に発表)

 バイオメディカル学分野の大学院博士課程学生Tuan Dat Leさんと井上喜博教授は、ゴマ種子に含まれるリグナン類の一種sesaminがショウジョウバエ成虫の寿命を延長、老化表現型を遅延させることを見出し、その作用機序の一端を解明しました。この研究成果を Antioxidants誌(IF=5.014)に発表しました。

 Leさんらは、哺乳類よりも寿命が短く、老化が早いショウジョウバエを用いて、sesamin(CAS:607-80-7)には、成虫寿命を延長させるとともに、筋肉、脳神経系、消化管上皮に現れる老化表現型を遅延させる効果があることを先に報告しています(Eur Rev Med Pharmacol Sci 23, 1826-1839, 2019)。これはsesaminに生体老化を抑える効果があることを示した最初の報告になります。今回、Leさんはsesamin摂食した成虫では、複数の抗酸化酵素遺伝子のmRNAレベルが上昇していることを明らかにし、これらの転写に関係する転写因子Nrf2の活性を調べました。その結果、sesamin摂食後に消化管で、続いて脳内でNrf2が活性化することを見出しました。さらに脳内のどのタイプの神経でNrf2が活性化するのか調べました。その結果、主要な6タイプの神経のうち、とくにコリン、グルタミン酸、ドーパミン作動性神経において、sesamin摂食後にNrf2転写因子の有意な活性化が認められました。これらの神経に酸化ストレスを与えると、加齢に伴いそれらの神経が早く失われます。一方、sesamin摂食個体ではこの消失が有意に抑えられました。したがってsesaminの寿命延長効果は、酸化ストレス(生体老化の主因とされる)を除去する酵素の発現促進による可能性が考えられます。Nrf2はその抑制因子Keap1と複合体を作るとすぐに分解されます。Keap1の大量発現により、sesaminの効果が低下したことから、このタンパク質がsesaminの標的である可能性が考えられます。ヒトのコリン作動性神経は脳の老化やパーキンソン症、アルツハイマー症に関連しています。グルタミン酸作動性神経も学習や記憶に関与します。sesaminには酸化ストレスによる脳の老化(ボケ)を抑える予防効果がある可能性があります。今後、カイコなどの大型昆虫、さらに哺乳類モデルにより、この抗老化効果を検証していく予定です。

Le Tuan Dat and Inoue, Y.H. Sesamin activates Nrf2/CncC-dependent transcription in the absence of oxidative stress in Drosophila adult brains. Antioxidants (04/06/2021受理)