新たなDNA酸化損傷修復遺伝子の同定と、それらの低下が老化を促進させることをショウジョウバエの老化モデルを用いて実験的に証明
バイオメディカル研究分野の井上喜博 准教授と大学院応用生物学専攻(博士前期)奥村和子さん,応用生物学課程4回生西原駿太さんは,ショウジョウバエの成虫を用い,DNAの酸化損傷を修復する遺伝子を新たに3種類同定しました(添付図)。さらにこれらの低下によるDNAの酸化損傷の蓄積が,ショウジョウバエ成虫が示す老化表現型(加齢にともなう行動量の低下,筋肉老化,脳内のドーパミン神経の脱落)を有意に促進することを明らかにしました。この成果は,古くから提唱されてきた,DNA損傷の蓄積が老化の主原因になるという仮説を支持するものです。本研究は2019年3月3日にDNA repair誌(IF 4.461)に掲載されました。
生物の体内でエネルギーが産生される過程などで活性酸素種という酸化力の強い物質が作られます。これらによりDNAのグアニン塩基が酸化されるとアデニンと,ピリミジンが酸化されるとグアニンと誤対合を形成します。これらが複製されると突然変異が生じます。この蓄積が癌の発症や老化につながるという仮説が提唱されてきました。これに対して,細胞にはDNAの酸化損傷を抑制する修復機構が存在します。本研究では,これに必要な3つの遺伝子(酸化グアニン除去に必要なRpS3,酸化dGTPの分解に必要なCG42813,酸化チミジンの除去に必要なCG9272)を新たに同定しました。これらの遺伝子を低下させると,体内の細胞にDNA損傷が蓄積されます。これら3遺伝子は真核生物に広く保存されている可能性が高く,DNA損傷機構の研究に有用な材料になります。
さらにこれらの発現ないしは活性をショウジョウバエの成虫期特異的に低下させると,寿命が短縮し,加齢にともなう行動量の低下が促進されることがわかりました。そこで成虫筋肉,脳内のドーパミン神経を共焦点レーザー顕微鏡観察法などにより,詳しく調べました。その結果,筋肉老化を表すインデックスの増加,ドーパミン神経の脱落が促進されていることを明らかにしました。これらの成果は,DNA損傷の蓄積が老化の主原因になるとする仮説を支持する実験的な証拠になります。
Okumura, K., Nishihara, S. and Inoue, Y.H. Genetic identification and characterization of three genes that prevent accumulation of oxidative DNA damage in Drosophila adult tissues. DNA Repair 2019 Mar 3, doi:10.1016/j.dnarep.2019.02.013. PII: S1568-7864(18)30267-2